亡くなった方が、財産の分配方法を決めていた「遺言書があった場合」について解説致します。
遺言書があった場合
相続登記において、不動産の名義を変える内容決定には、優先順位があります。
登記に限りませんが、相続が発生した場合には、一番最初に遺言書の有無の確認しなければなりません。
相続財産の分割においては、遺言が最優先されると規定されているからです。
その為、亡くなった方の意思が反映されている、遺言書があるかどうか確認してから、他の作業に入った方がスムーズです。
遺言書の種類
遺言書にどんな種類があるのでしょうか。
遺言書には普通方式遺言と特別方式遺言といった2種類の形式があります。 特別方式遺言は、事故や人事災害などで身に危険が迫っているときに利用できる形式です。
普通方式遺言は、通常時の状態で使われる形式です。
特別方式遺言を作成する事は、めったにないので、通常は普通方式遺言を残します。
特別方式遺言について、簡単にまとめておきます。 中には特別な証人や、裁判所で確認が必要な遺言もあります。
特別方式遺言
「危急時遺言」
一般臨終遺言 死が迫っている状況で行う遺言形式。
難船臨終遺言 船や飛行機の難航等で死が迫っている状況で行う遺言形式。
「隔絶置遺言」
一般隔絶地遺言 隔離病棟治療中や刑務所に服役中など、自由に行動できない状況で行う遺言形式。
船舶隔絶地遺言 船で死は迫っていないが、船中で遺言書を作成したい場合の遺言形式。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者が自筆で遺言書を作成する形式です。
一般的にイメージする遺言書はこの自筆証書遺言です。
遺言者が、本文、日付、氏名を自書し、押印をすることで、効力が認められます。
最近、自筆証書遺言の書き方が、緩和されました。以前は全文の自署が求められていましたが、財産目録は自署の必要がなくなりました。
法務局で預かってもらえる制度も始まっています。
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公正証書遺言
公正証書遺言とは、証人2人の立ち会いの下、公証人が遺言者から聴き取った内容を元に作成する遺言です。
作成した遺言書は公証人役場で保管してもらえます。 費用がかかりますが、専門家に確認してもらえますので、一番安心で安全です。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言者が自分で用意した遺言書を証人2人と同行して公正役場に持ち込み、遺言書の存在を保証してもらえる形式です。
証人と公正人には遺言の内容は知らせずに、遺言書がある事実だけを残すのが目的です。
公証人が遺言書を提出した日付と遺言を書いた人の申述を記入します。
遺言を書いた人と2人の証人も署名押印が必要です。 公正証書遺言と異なり、公証人役場で保管されません。
手数料も高いので、確認もされませんので、遺言内容を知られたくない場合以外は、自筆証書遺言か公正証書遺言を選択した方が賢明です。
遺言書を見つけた時にどうすればいいのか
法務局で保管されていない自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合は、家庭裁判所で検認の手続きをしなくてはなりません。
公正証書遺言の場合や、法務局で保管してもらっていた自筆証書遺言の場合は、検認不要です。
遺言書を残してあるはずなのに見当たらない場合は、最寄りの法務局や公証役場に行って、遺言の有無を確認した方が間違いありません。
また、見つかった遺言書が、自筆証書遺言である場合、勝手に開封してはいけません。
勝手に開封することは法律で禁止されています。
遺言書の改ざん防止が目的ですが、誤って開けてしまうと、過料(5万円以下)が科されることもあります。
検認とは?
遺言書の検認とは、相続人などの立会いのもとで、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。
相続人に対して、確かに遺言はあったんだと、遺言書の存在を明確にして、偽造されることを防ぐための手続きです。
※有効・無効を判断する手続きではありません。
検認の手続き
では、実際にはどうやって検認の手続きをするのでしょうか。
遺言者の最後の住所地の家庭裁判所へ、必要書類と費用を納めて申し立てます。
申立書
遺言書検認の申立用紙は、家庭裁判所でもらえますし、ホームページからもダウンロードすることができます。
必要な書類
基本的に、提出書類は、原本の提出が必要です。
何も言わないと、原本は返って来ませんので、後の相続登記で使用するためにも「原本還付」の手続きをしておいた方が、スムーズです。
必要な書類は、下記のとおりです。
共通
・遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本等
・相続人全員の戸籍謄本
・遺言者の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本等
相続人が遺言者の(配偶者と)父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)の場合
・遺言者の直系尊属(相続人と同じ代及び下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合,父母と祖父))で死亡している方がいらっしゃる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本等
相続人が不存在の場合,遺言者の配偶者のみの場合,又は遺言者の(配偶者と)の兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)(第三順位相続人)の場合
・遺言者の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本等
・遺言者の直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本等
・遺言者の兄弟姉妹に死亡している方がいらっしゃる場合 その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本等
・代襲者としてのおいめいに死亡している方がいらっしゃる場合、そのおい又はめいの死亡の記載のある戸籍謄本等
自筆証書遺言書
申立時に提出する必要はありませんが、検認の当日には、印鑑と共に持参して下さい。
費用
検認申立をする際には、以下の費用が必要になります。
- 800円分の申立用の収入印紙
- 150円分の検認済証明書発行用の収入印紙
- 裁判所が指定する額の郵便切手
検認手続きの流れ
家庭裁判所に申し立てると、相続人全員に呼び出しの通知が発送されます。
家庭裁判所次第ですが、申し立ててから2週間から1ヶ月くらいの間で検認の期日が指定されます。
相続人立会の下に開封され、検認手続きが行われますが、相続人全員が出席しなくても、検認の手続きに支障はありません。
手続きが完了すると、その場で遺言書は返却され、検認済証明書の発行もしてもらえます。
遺言書の内容に納得できない場合
もし、遺言書の記載内容に不満があったり、遺言書自体が無効ではないのかといった疑いを持つ場合もあるかもしれません。
遺言書の内容に納得できない場合、遺言書に沿わない遺産分割を行うことも可能です。
その場合、相続人全員で協議の上、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が実印を押さなければなりません。
自分の法定相続分が侵害されている場合は、遺留分侵害額請求訴訟を起こすこともできます。
また、遺言者自身が書いたのか、遺言当時に認知症等で書けなかったのではないか、という疑いがある場合には、家庭裁判所ではなく地方裁判所に「遺言無効確認請求訴訟」を起こすことになります。
ただ、実際には、家庭裁判所で遺産分割調停を起こし、手続きの中で遺言書自体のことも話し合うことになります。
ただし、家庭裁判所は、遺言書が有効か無効かについての判断はしてくれません。
相続人間で、争いになる可能性がある場合には、弁護士等の専門家に相談した方がいいでしょう。
まとめ
遺言書について、種類や手続きの方法をご説明致しました。
検認が必要な遺言書もありますが、事前に確認をしっかりとしてもらえる公正証書遺言が、一番間違いありません。
亡くなった後の手続きを簡略かつスムーズにするためには、公正証書遺言の一択と言ってもいいくらいです。
相続登記自体も、必要書類が少なくなり、かなり簡単になります。