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農地の開発と市街化調整区域で分家住宅や店舗を建築できる許可の要件

2020年11月25日

前回、農地を転用したり、名義を変更する場合の規制をご説明致しました。

日常生活で農地の規制に差のある「市街化区域」「市街化調整区域」を意識して暮らすことは、まずないと思います。

とは言え、元々お生まれの地域が、「市街化調整区域」だった方にとっては、実家の立て替えや近所に家を建てる場合には、避けては通れない話になってきます。

今回は、郊外(市街化調整区域)に建物を建てる場合に、必要となる条件をご説明致します。

 

都市計画法と農地法

農地を農地以外にしたり、名義を変えようとした場合には、「農地法」により規制がかかります。

その内容に建物建築が加わる場合には、更に「都市計画法」の許可も必要になって来ます。

「市街化調整区域」の農地に建物を建てたり、駐車場・資材置場にするには「農地法の許可」が必要ですが、その中でも農地に建物を建てての転用事例が最も多いです。

「市街化調整区域」に建物を建てるには、その場所が農地でない場合にも、原則として「都市計画法」の許可が必要です。

その場所が、農地だった場合には、「開発許可(建築許可)」を申請すると同時に、「農地法の許可」を申請する必要があります。

 

開発許可と建築許可

「開発許可」は、市街化調整区域のみならず、市街化区域でも申請されます。

「建築許可」は、市街化調整区域に特有の許可制度です。

開発許可制度では、建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更を「開発行為」といいます。

「土地の区画形質の変更」とは、次の3つを言い、そのいずれか一つでもあれば、これに該当します。

開発行為とは?

1 区画の変更:道路、水路、公園などを新設、変更又は廃止すること
2 形状の変更:盛土又は切土を行う造成で土地の形状を変更すること
3 性質の変更:農地などの土地を建築等のために宅地に変更すること

 

この「開発行為」をしようとする際には、「開発許可」を得ないと工事の着工ができません。

そして、建物の建築行為であって、上記の開発行為を伴わないものに対する建築の許可のことを「建築許可」と言います。

つまり、市街化調整区域内でも、以下の様な例の場合には、「開発許可」よりも要件が軽微な「建築許可」の申請で、自宅等を建築することができます。

1.分譲地みたいに道路を作らずに
2.埋め立てもせずに高さを変えず
3.農地じゃない場所に建築する

こんな条件下で建物を建てる場合には、「建築許可」で大丈夫です。

正式な名称は、都市計画法第43条第1項に基づいて「建築物の新築、改築若しくは用途の変更又は第一種特定工作物の新設許可」といいます。

 

これら要件は、市町村で異なっている場合が多いので、窓口で確認するか、行政書士等の専門家に相談して下さい。

土の切り盛りする高さが違うことは、よくあります。

農地への建築でも、盛土が伴わなければ、畑の建築が「建築許可」で済む場合もあります。

お住まいの市区町村の要件を把握することが、大切です。

 

住宅建築は基本的に市街化区域

「市街化調整区域」に建物を建築することは、原則認められておりません。

そのため、規制のない「市街化区域」に土地を所有していると、そちらに建てることが優先されます。

もし、本人だけでなく、家族が市街化区域に土地を所有している場合には、建てられない正当な理由がない限り、そちらでの住宅建築が優先されて、許可は下りません。

 

住宅や店舗を建築できる場合

都市計画法では、第34条に市街化調整区域に建物を建てられる場合の、立地基準を定めています。

市街化調整区域でも、一定の要件があれば、工場や配送センター、特別養護老人ホーム等の福祉施設も建築することはできます。

ただ、事業を行う方でなければ、縁の少ない場合ばかりですので、一般的な住宅や店舗の場合に限って、ご説明致します。

ただし、愛知県の場合を想定していますので、独自の運用基準がある部分もあります。

建築の際の目安として下さい。

 

住宅・店舗建築の代表的な許可基準

住宅や店舗建築の許可が下りる場合に、以下の様な基準が設けられています。

 

開発審査会基準第1号

「農家の二・三男が分家する場合の住宅等」

 

開発審査会基準第7号

「既存集落内のやむを得ない自己用住宅」

 

開発審査会基準第16号

「相当期間適正に利用された住宅及び学生下宿のやむを得ない用途変更」

 

開発審査会基準第17号

「既存の宅地における開発行為又は建築行為」

 

都市計画法29条 適用除外

「農家住宅」

 

都市計画法34条第11号

「条例で指定した土地の区域内において行う開発行為」

 

都市計画法第34条第1号(第2項)

「市街化調整区域に居住している者の日常生活のために必要な店舗」

 

今回は、この中でも「分家住宅」の要件について解説致します。

 

農家の二・三男が分家する場合の住宅等(分家住宅)

いわゆる「分家住宅」と呼ばれているものです。

実際に農家である必要がある行政機関と、そうでない行政機関がありますので、注意が必要です。

市街化調整区域での住宅建築には、最も多い許可の基準です。

なお、敷地面積は500m以下でないと許可が下りません。

もし、500mを超えていた場合には、分筆が必要になります。

分家住宅には次の二つのものがあります。

 

一般分家と大規模分家

  1. 「一般分家」(旧基準)
  2. 「大規模分家」(新基準)

「一般分家」は、線引き前から本家が所有している土地に分家住宅を建てることをいいます。

本家とは?

本家とは、一般的に線引き前より世帯を構成して居住している状態を言います。

原則として建築物の建築が禁じられている市街化調整区域において、線引きの日以前から、引き続き現在に至るまで生活の本拠を構えている世帯のことです。

 

その土地は原則として既存の集落内、またはそれに隣接する場所でなければなりません。

「大規模分家」は、本家が市街化調整区域内の「大規模既存集落」に線引き前から継続してあり、その同一集落内の土地を取得して、分家住宅を建てることをいいます。

大規模既存集落とは?

大規模既存集落の要件は、その集落内の建物と建物が(建物が建っている敷地間で)55m以内で、概ね200戸以上連たんしている集落を言います。

都市計画における連坦(れんたん)とは、区画をまたいで建築物ないし街区が繋がっていることいいます。

 

「一般分家」は、少数の連たん。

「大規模分家」は、200戸連たん

といった、違いがあります。

 

後継者分家

「分家」は「本家」があっての分家ですから、本家には後継者が存在しなければなりません。

つまり、後を継ぐ後継者の分家はできません。

ただし、一定の条件のもとで、後継者の分家も認められております。

後継者分家とは?

後継者分家は、本家の隣接地にのみ認められ、隣接の距離は、市町村によって異なっています。

おおよそ300m以内であれば、後継者分家を認められているようです。

極端な例として一般分家は本家より2km以内の土地、大規模分家は本家より1km以内の土地で可能としている行政機関もあります。

後継者分家の扱いは、他の分家よりも差あります。

 

後継者というと跡継ぎといったイメージですが、序列はありません。

長男である必要も、男女の差も設けられていません。

後継者分家の細かな条件

以下の条件が必要な場合もあります。

  • 結婚している
  • 来結婚予定がある
  • 持ち家がない

後継者分家は、いずれ本家に入るべき身分として扱われています。

 

孫分家

また、本家は必ずしも親が住んでいる所に限られません。

祖父母から見た3親等内のいわゆる「孫分家」もできます。

3親等内なので、祖父母亡き後、本家を後継している叔父や叔母が本家に居住していれば、叔父や叔母も可能です。

 

まとめ

原則として、市街化調整区域は、市街化を抑制する地域なので、建物を建築することができません。

しかし、建物を建ててはいけないという規制がされる以前から、居住していた人にとっては、かなり酷な扱いです。

そのため、一定の基準をもって市街化調整区域内での建築を認めていますが、その要件はかなり難解です。

建物が建つか建たないかで、生活や利用方法も大きく変わって来ます。

建築会社や詳しい専門家に相談し、計画立てて活用して下さい。

今回は市街化調整区域で建物を建てられる場合として、「分家住宅」の事例を御紹介しました。

この他にも市街化調整区域で建物を建てることができる要件があります。

自己用住宅や既存宅地、農家住宅の建築の場合に許可が下りるケースの詳細については、こちらをご覧ください。

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