起業の雑学

「寄託」を例とした、商人の責任が重くされている商法を解説します

2020年6月4日

商人が事業をする商行為も「売買」や「問屋営業」、「運送取引営業」と多岐に分かれます。

その中でも「寄託」を例にあげて、「商法の規定」その考え方をご説明致します。

 

商人であることによる責任の過重

商人は、営業の範囲内において他人から物を預かったときは、無償であっても善良なる管理者の注意義務(商法593条)をもって管理しなければなりません

一般人であれば、無償の寄託の場合は特別な注意義務が要求されないことと比べると(民法659条「自己の物におけるのと同一の注意」)、責任を重くされていると言えます。

さらに、それがホテルや温泉宿、浴場など多数の人が出入りする場所(これを商法では「場屋」(ジョウオク)といいます)となると、盗難や紛失の危険が高まるので、商法は保管する側にさらに重い責任を課しています。

 

場屋の主人に対する責任の過重

預かったもの

たとえば、商法594条1項は「旅店、飲食店、浴場その他客の来集を目的とする場屋の主人は、客より寄託を受けたる物品の滅失または毀損につき、その不可抗力によりたることを、証明するにあらざれば、損害賠償の責を免れることを得ず」と規定しています。

ここにいう「不可抗力」とは、一般的には「事業の外部から発生した出来事で、通常必要と認められる予防方法を尽くしても、なお防止できないような事故」をいうと解釈されています。

したがって、お客様から何か物を預かる場合には、考えられるあらゆる防止策を講じていないと、万一の紛失盗難の場合、賠償責任を問われることになるかもしれません。

 

客の持ち物

では、ホテルで日頃、特段に預かっていない、客の持ち物はどうでしょうか。

それが紛失したとしても、預かってもいない物なのだから、客の自己責任のようにも思えます。

しかし、商法は594条2項で「客が特に寄託せざる物品といえども、場屋中に携帯したる物品が場屋の主人又はその使用人の不注意によって、滅失または毀損したるときは、場屋の主人は損害賠償の責に任ず」と規定しています。

ホテル側は、預かった物でなくとも、ホテル内において客の荷物が滅失毀損しないように、善良なる管理者の注意義務をもって管理する必要があり、これを怠ったがために紛失したような場合には、損害賠償責任が生じるのです。

 

張り紙による告知

こうなると、預かったものならいざ知らず、客が自分で持っていた物まで滅失毀損の責任を負わせられるのは、たまったものではなく、約款や張り紙で、預かった物以外は責任を負いません、と言っておきたくなります。

しかし、商法は594条3項で「客の携帯品につき、責任を負わざる旨を告示したるときといえども、場屋の主人は前2項の責任を免れることを得ず」としっかり規定しています。

つまり「お預けにならなかった物について紛失等をされても、当旅館は一切責任を負いません」などと張り紙をしたところで、意味はないということになります。

では、約款はどうでしょうか。

これについては、当事者間の合意事項として、商法594条は任意規定ですので、責任免除や制限をすることは可能であり、原則として有効です。

張り紙は一方的な告示に過ぎず、契約になりませんが、約款となれば当事者の意思により別段の定めをすることになるので、効力が認められるのです。

したがって、思わぬ高額な賠償責任を負うことを避けるためには、約款で責任の免除や限定(責任限度額)を定めておくことが有効ということになります。

ただ、責任の免除というのは、あまりに片面的であり、合理性もないので、実際には免責ではなく、責任を限定する約款が多いようです。

 

高価品の特則

また、紛失したものが高価品であった場合には、商法に特則があります。

商法595条は「貨幣、有価証券その他の高価品については、客がその種類及び価額を明告して、これを前条の場屋の主人に寄託したるにあらざれば、その場屋の主人はその物品の滅失または、毀損により生じたる損害を賠償する責に任ぜず」と規定しています。

価品の場合、客が予め種類とその価額を明らかに告げておくのでなければ、ホテル側は賠償責任を負わないことになっています。

ホテル側にとっても、高価品であることがわかっていれば、それ相応の注意をすることができますし、高価品であることを知らない場合にまで、高額な賠償責任を負わせることは酷になるので、このような規定が設けられているのです。

以上は、「寄託」を使った一例ですが、上記の様に個人どおしで取引をする場合に比べて、商売として取引を行う場合に法律は、責任が重くなっています

 

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