もしもトラブルになった場合、定めておいたリスク条項がどう働くのかについて、その必要性と共に解説いたします。
トラブルが発生した場合には、一般的に民法や商法の規定によって処理することが可能です。
実際にそういうケースも多いのですが、契約であらかじめ定めておいた方がスムーズに処理することができます。
契約に特約を定めておけば、民法や商法の規定よりも優先されるので、自己にとって有利に解決することができるのです。
リスク条項の必要性
代表的な例が、「無催告解除の特約」です。
民法の規定では、相手方が債務を履行しない場合には、解除に先立って相当期間を定めて履行を催告することが必要(民法541条)とされていますが、「○○○の事由が生じた場合には、甲は何ら催告をすることなく解除することができる」と規定しておくと、速やかに契約を解除できるので、早期に損害の拡大を止めることができます。
例えば、資金繰りが厳しい時に、期日通り代金が支払われない場合、直ちに契約を解除して、納品予定だった商品を違う相手に売って資金繰りをすることが可能になります。
また、「契約不適合責任」の期間は、民法では不具合を「知ってから」1年以内、商人間の売買では6ヶ月以内と定められていますが、特約によりこれを延長することもできますし、短縮や免除も可能です。
契約不適合責任とは?
売買契約で、商品に品質不良や品物違い、数量不足などの不備があった場合に、売主が買主に対して負う責任のことです。
令和2年4月の民法改正により、これまで「瑕疵担保責任」と呼ばれていたものが、「契約不適合責任」という名称に改正されました。以前の「瑕疵」という文言が使われなくなり、「契約の内容に適合しないもの」という表現に改められました。
法改正により「契約(債務不履行)責任」と整理された結果、契約不適合責任の規定が特定物・不特定物を問わず適用され、契約不適合の対象は原始的瑕疵にかぎられないこととなりました。
更に、買主の取り得る手段として、これまでの解除、損害賠償に加え、「追完請求」、「代金減額請求」も認められました。損害賠償請求には、売主の帰責性が必要になっています。
改正前は、「引き渡し」から起算されておりました。改正後は、「知った時」から1年に変更されました。ただし、不適合の事実を知らなかった場合は、消滅時効に関する一般的な規律が適用されるので、「目的物の引渡しの時又は仕事の終了時」から10年間となります。
とは言っても、あまりに当事者の一方に不利な特約は、信義則違反などにより裁判で争ったときに無効となるケースもあります。
また、実際の契約にあたっては、「下請法」、「独占禁止法」、「不正競争防止法などの法律」といった強行法規の法律に違反する契約は、無効となる場合がありますので、注意が必要です。
主なリスク条項の例
リスク条項とは、紛争時にどちらが責任を負うか等を定めておく約定です。
内容は、どちらが、どんな金額を、どの期間、負担するかなど様々ですが、契約書に備えておきたい、代表的なリスク条項には以下のものがあります。
目的物に関するリスクについて
契約不適合条項
危険負担条項
支払いリスクについて
債務保証条項
保証金条項
相殺(期限の利益喪失)条項
所有権留保条項
取引全体に関するリスクについて
損害賠償条項
解除条項
秘密保持条項
それぞれ極めて重要な条項ですが、これらの中で、商取引上の契約において特に重要なものは、「契約不適合条項」、「債務保証条項」、「解除条項」だと思われます。
契約書での定め方
上記の規定は、「強行規定」(当事者の合意により変更できないもの)ではないため、当事者の合意によって、内容や関係性に応じた契約不適合責任の処理の仕方について、自由に定めることができます。
契約書での主なポイントとしては、以下の点があります。
- 起算点
- 保証(補償)期間
- 帰責性
- 保証(補償)内容
起算点
期間の始まる時点のことです。
具体的には、責任の発生時を「納入時」とするのか、「受入検査合格時」とするかという問題です。
保証期間が同じであれば、売主にとっては、起算点が早い方が早期に責任を免れることになるので、納入時の方が有利ですし、買主にとっては、受入検査合格時の方が有利ということになります。
保証期間
民法上の1年あるいは商法上の6ヶ月に関わらず、期間の長短を定めることができます。
場合によっては無保証という規定もありえますが、公序良俗に反し無効となる可能性があるのでおすすめできません。
表現としては、「補償」が正しいのですが、ここでは分かりやすく保証とします。
帰責性
改正法では、損害賠償および解除については、債務不履行の一般規律に服することとなりました(改正民法564条)。
一般的に契約書では、損害賠償、解除について別途規定を設けている場合がほとんどです。
法律の規定にかかわらず、自由に定めることができるので、これらの損害賠償請求および解除を、法律の規定が妨げるものでないことを明記しておくことが大切です。
保証内容
現実的には条項がなくとも、損害賠償だけでなく、代品納入や契約不適合の修補請求ができるような定めもできます
解除について
いったん契約を結んだら、当事者はいつでも好きな時に解除することはできません。
契約を解除することは、契約の拘束力から当事者を解放します。
簡単に契約の解除が認められると、当事者だけでなく、取引関係にある第三者にも影響を及ぼします。その為、民法や商法では、解除権が発生する場合を、履行遅滞や履行不能の場合などに限定しています。
しかし、民法の解除に関する条文は「強行規定」(違反したら契約が無効になるような規定)ではありませんから、契約により、民法が定める事由以外にも解除事由(解除できる理由となる事実)を自由に定めることができます。
商取引の契約においては、通常はさまざまな解除事由が定められることが多いです。