相続・遺言・登記

公正証書遺言より安心?「自筆証書遺言書保管制度」利用のススメ

2020年7月4日

「あなたの大切な遺言書を法務局(遺言書保管所)が守ります」

こんなフレーズでいよいよ令和2年7月より、「自筆証書遺言書保管制度」を利用できるようになりました。

 

自筆証書遺言書保管制度って何?

法務局が自分で書いた遺言書を保管することにより、紛失や偽造の心配がなくなる、安全性を高める制度です。

作成した遺言書を自分で保管するをリスクを解消するために、創設されました。

といっても、この制度は、自筆証書遺言による遺言書を、法務局(遺言書保管所)に保管をするという選択肢を増やすものです。

従来どおり自宅等で保管しておいても問題ありません。

必ず預けなければなくなったという制度ではないのです。

 

遺言の種類

「遺言」は、相続をめぐる紛争を防止するために有用な手段です。遺言を残す形式として、これまで大きく2つ利用されてきました。

「自筆証書遺言」「公正証書遺言」です。

少し変わったものでは、「秘密証書遺言」や特別方式の「緊急時遺言」といった方式もあります。

「自筆証書遺言」は、遺言者本人が自分で書いて作成でき、内容の変更も手軽で自由度の高いものです。

しかし、遺言者本人の死亡後、相続人等に発見されなかったり、要件を踏まえていないと無効になったり、一部の相続人等により改ざんされる、等のおそれがあります。

それに対し「公正証書遺言」は、公証人と2名以上の証人立ち会いのもとに行う遺言です。

公証人は、遺言能力や遺言の内容の有効性の確認、遺言内容についての助言を行います。

確実で間違いがないのですが、自筆証書遺言に比べると手数料が高く付きます。

この自筆証書遺言のメリットを損なわず、問題点を解消して利便性をよくした制度が創設されました。それが、「自筆証書遺言書保管制度」です。

 

大まかに制度をまとめてみました。

まとめ   
 自筆証書遺言
(法務局に預けない)
自筆証書遺言
(法務局に預ける)
公正証書遺言
作成者本人同左公証人
証人不要同左2名必要
署名捺印本人同左本人、公証人、証人
印鑑認印でも可同左実印
費用安い同左高い
保管法務局同左公証役場
検認手続必要不要不要
相続開始通知ないが結果的にある
※検認制度にはある
ありなし
メリットいつでも作成変更できる
費用がかからない
紛失、偽造の恐れがない
費用が安い

遺言書1通 3,900円
安全・確実
紛失、偽造の恐れがない
出張もしてもらえる
デメリット紛失しやすい
偽造されるかもしれない
発見されにくい
無効になる可能性がある
無効になる可能性がある
本人が法務局に行く必要がある
事前打ち合わせが必要
印鑑証明書が必要
費用が高い
数万円

以前は全て手書きでないと無効になってしまいましたが、2019年1月に自筆証書遺言の要件も緩和されて、全てを自筆で書かなくてよくなっています。

要件を踏まえていれば、預けなくても有効ですが、「検認」という確認手続きが必要であったり、紛失・偽造の可能性があります。

法務局に預けることによって、はじめて様々な特典を受けることができるのです。

ポイント

遺言書の検認とは、遺言書の発見者や保管者が、家庭裁判所に遺言書を提出します。

相続人などの立会いのもとで、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。

そうすることで相続人に対して、確かに遺言はあったんだと、遺言書の存在を明確にして、偽造されることを防ぐための手続きです。

但し、有効・無効を判断する手続きではありません。

 

遺言書の様式

自筆証書遺言を書くときは、様式が厳格に決まっているので、いくつかのルールを守らなくてはいけません。

  •  作成日付の記載(吉日等は無効になります)
  •  サイズはA4で、文字の判読を妨げる模様のないものに記載
  •  容易に消えない筆記具を使う
  •  裏面は利用しない
  •  署名・押印が必要
  •  内容を変更した場合には、変更した旨の別途押印が必要
     (変更したり、間違えたら書き直しましょう)

法務省ホームページより

 

財産目録は自署する必要がありません

 財産の目録は、印刷したものでも、登記情報や通帳のコピーも使用できます。

法務省ホームページより

 

自筆証書遺言の書き方・預け方

遺言の記載の方法

遺言により財産を譲渡する場合、推定相続人の方に対しては「相続させる」という言葉を。

推定相続人以外の方に対しては「遺贈する」という言葉を用います。

内容の意味が分かれば、通用しますが、上記表現の方が間違いありません。

また、相続させたり、遺贈する財産は次のように指定することが出来ます。

 

全財産を相続させる(遺贈する)方法

例えば、全財産を甲に相続させる(遺贈する)
全財産の3分の1を乙に相続させる(遺贈する)等

 

財産ごとに振り分ける方法

例えば、不動産は甲に遺贈し、預貯金は乙に相続させる
不動産Aは甲に、不動産Bは乙に相続させる等

 

推定相続人の相続分を指定する方法

例えば、甲の相続分は5分の3、乙の相続分は5分の2とする等

 

上記を組み合わせた方法

例えば、不動産は甲に3分の2、乙に3分の1の割合で相続させ、預貯金は甲に3分の1、乙に3分の2の割合で相続させる等

 

相続と遺贈を組み合わせた方法

例えば、不動産の2分の1は甲に相続させ、残りは乙に遺贈する等

 

遺言書に記載されなかった財産はどうなる?

なお、遺言で誰に譲渡するかを特に記載しなかった財産は、推定相続人が相続することになります。

また、遺言の中で指定した推定相続人や受遺者(遺贈を受ける人)が遺言者より先に死亡してしまうと、その部分だけは無効となり同じく推定相続人が相続することになります。

 

漏れを防ぐために

その為、遺言書の最後に「その他一切の財産は何某に相続させる(遺贈する)」という文言を入れることで、先に受遺者が亡くなるかもしれない場合は「遺言者の死亡以前に甲が死亡したときは、不動産Aを乙に相続させる(遺贈する)」という予備的な文言を入れることで、財産を希望する相手に漏れなく譲ることができます。

ポイント

「推定相続人」とは、被相続人が死亡した場合に、法律の定めから原則として相続権があると考えられる人を指します。

被相続人が死亡した時点において、最優先順位の法定相続人のことを推定相続人と呼びます。

相続が開始した場合に相続される人を「被相続人」。相続人となる資格を有している人を「法定相続人」と呼びます。

「推定相続人」と「法定相続人」は、用語は違いますが、ほぼ同じことを指しています。相続時において「廃除」されたり、相続人として「欠格事由」に該当しなければ、そのまま法定相続人になります。

法定相続人には優先順位があり第1位が子、第2位が親、第3位が兄弟姉妹となります。また、配偶者は常に相続人となります。

 

遺言執行者について

「遺言執行者」は、財産の管理その他遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権利と義務があります。実際には、名義変更や分配といった手続きをする人のことをいいます。

遺言執行者となるためには特別な資格は必要ありませんが、未成年者や破産者はなることができません。

選任方法は遺言で指定する方法が一般的です。通常、法定相続人や受遺者(遺贈を受ける人)が遺言執行者として選ばれています。

遺言執行者が選任されている場合といない場合では、手続きの煩雑さが随分と違います。

例えば、被相続人の預貯金を引き出すには相続人全員が銀行に出向いて解約手続をしなければなりません。

また、不動産を遺贈した場合にも相続人全員が印鑑証明書を準備する等の登記手続に関与する必要があります。

しかし、遺言執行者を選任しておけば相続人全員の代理人としてこれらの手続きを円滑に進めることができるので、遺言執行者を選任されておくことをお薦め致します。

 

附言事項

 例文には記載がありませんが、「附言事項(ふげんじこう)」という項目を設けて、自分の気持ちを記載することもできます。

 付言事項の内容は法的な拘束力を持ちませんが、葬儀の方法や献体等の自分の希望を伝えたり、これまでの感謝の気持ちを記載することができます。

 

保管場所を決める

 遺言保管所の管轄には決まりがあります。

  • 遺言者の住所地
  • 遺言者の本籍地
  • 遺言者が所有する不動産の所有地

上記いずれかにある法務局を選択して下さい。
※ただし、既に預けている遺言書があれば、その法務局にしか預けることができません。

 

申請書を作成する

 定型の用紙に必要事項を記入して下さい。申請書は下記の様な用紙です。

 

手続きの予約

手続きは予約制です。法務局(遺言書保管所)において行う手続が、各種確認や手続の処理に、時間がかかるため予約制となっています。

事前に予約をしてから、お訪ね下さい。

 

予約方法

  1. 法務局手続案内予約サービスの専用HPにおける予約(24時間365日可)
  2. 法務局(遺言書保管所)への電話による予約
    手続を行う予定の各法務局(遺言書保管所)へ、電話にてお申込みください。
    受付時間:平日8 :30〜17:15まで(土日、祝日、年末年始は除く)
  3. 法務局(遺言書保管所)窓口における予約
    手続を行う予定の各法務局(遺言書保管所)の窓口へ直接お申込みください

 

保管申請

次の1~5までのものを用意して、予約した日時に「遺言者本人」が、法務局(遺言書保管所)へお訪ね下さい。

  • 遺言書
    ホッチキス止めをしない
    封筒は不要
  • 申請書
    あらかじめ記入の上持参
  • 添付書類
    本籍の記載のある住民票の写し等(3か月以内)
  • 本人確認書類(下記のいずれか1点)
    マイナンバーカード
    運転免許証
    運転経歴証明書
    旅券(パスポート)
    乗員手帳
    在留カード特別永住者証明書
  • 手数料
    遺言書1 通につき3,900円
    (必要な収入印紙を手数料納付用紙に貼付)

 

保管証を受け取る

手続の終了後に「遺言者の氏名、出生の年月日、遺言書保管所の名称及び保管番号」が記載された「保管証」が交付されます。

遺言書の閲覧保管の「申請の撤回」、「変更の届出」をするときや、相続人等が「遺言書情報証明書」の交付の請求をするときに、スムーズですので大切に保管してください。

遺言書を法務局(遺言書保管所)に預けていることを、あらかじめご家族にお伝えになる場合には、この「保管証」を利用されると便利です。

イメージです。

 

注意点

大変安心な自筆証書遺言書保管制度ですが、以下の点に注意が必要です。

 

作成の相談には乗ってもらえない

公正証書遺言は、公証人が段取りから作成までしてくれますが、法務局は相談に乗りません。弁護士や司法書士といった専門家に相談はできます。

 

必ずしも有効ではないかもしれない

法務局は預かってくれますが、遺言書の有効無効を確認をする場所ではありません。形式上のチェックはしてくれますが、有効を保証するものではないのです。また、戸籍等により相続人の確認もされません。

 

やや安全性に劣る

法務局も本人確認はしますが、遺言内容まで確認を取りません。意思の確認はしないのです。また、遺言書の内容についてもアドバイスはしてくれません。

その点公正証書遺言は、作成時に公証人が本人に遺言の趣旨を口述させて、意思を確認します。遺言の内容について全ての事項を確認するのです。証人の立会が必要な事からも、判断能力がなかったと言われないなど、紛争の防止に役立つと思われます。

 

まとめ

従来の自筆証書遺言の欠点を補った、画期的な制度ですが、やはり公正証書遺言の方が、公証人や証人が介在し、遺言者の意思確認までされるので、遺言書の有効無効といった紛争を防げます。

紛争防止の為に残す遺言書という目的を考えると、折角開始された制度ですが、今後も公正証書遺言の利用をお勧め致します。遺言書は、遺言者が亡くなった後、法務局や銀行、証券会社と様々な場所で使われます。

その際にも、公正証書遺言の方が、間違いない印象がありスムーズに手続きが運ぶのは、今後も変わらないと思います。

費用や手間を考えると利用しやすいこの制度ですが、選択する前に今一度、遺言書を作成する意味を考えてから、作成して下さい。

自筆証書遺言を残す場合は、専門家に監修していただくことと間違いがありません。

必要に応じて賢く利用したいですね。

 

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