遺言書を作成した後に、予定していた状況や相続人との関係性に変化が生じることもあります。
もし、遺言書の内容を変更したくなったらどうすればいいのでしょうか。
変更する内容も、全部取り消したい場合から、一部変更したい場合まで様々です。
作成自体も大切ですが、変更や取り消しの方法も把握しておいた方が、色々な場面に対応できます。
遺言の撤回
遺言は、遺言者の最終の意思に法律的な効力を認める制度です。
その為、遺言者の意思を反映するために、いつでも自由に遺言を取り消したり、改めて新しい遺言をすることができなければなりません。
民法では、遺言者は「何時でも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を取り消すことができ」、「その遺言の取消権を放棄することができない」ものとしています。
遺言者は何時でも遺言内容を取り消したり、変更することができるので、遺言内容の効力は、遺言者が亡くなるまで発効しません。
また、制度は、遺言者の意思を大切にしているので、遺言を撤回できるのは、遺言者本人にのみであり、代理人や相続人によって撤回できるものではありません。
撤回といっても、前の遺言をなかったことにするという新しい遺言書を作成することになります。
遺言の撤回方法
遺言の撤回は、遺言書を作成したときの様に、遺言の方式に従ってなされなければなりませんが、遺言方式に当てはまればよく、公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回することもできます。
その逆も可能です。
遺言を取り消すことができる範囲は、全部でも一部でも撤回することができます。
また、遺言者自身が、遺言で記載した財産を生前に処分したり、贈与すると、その財産については、撤回したものとみなされます。
自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合
自筆証書遺言の場合、撤回する遺言を作成しなくても、自分で書いた遺言を破棄してしまえば、遺言自体がなくなりますので、撤回したことと同じ結果になります。
公正証書遺言の場合
公正証書遺言の場合は、原本が公証役場に保管されているので、作成者本人が遺言を破棄しても撤回したことにはなりません。
公証役場では本人だとしても原本を破棄してもらえませんので、遺言書を撤回する場合には、以前の遺言を撤回する遺言書を作成することになります。
遺言書の順番
遺言書は、一番最後に作成された、一番新しいものが優先されます。
公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言といった遺言の種類によっての優先順位はありません。
遺言書の方式に日付が要求されているのは、日付によって一番新しい遺言を特定するためです。
遺言の変更方法
遺言書を修正や変更するには、下記2つの方法があります。
- 「作成した遺言書自体に手を加える方法」
- 「遺言内容を撤回する、または修正するという遺言書を作成する方法」
どうしても作成した遺言を変更する必要が生じた場合には、新たに遺言を書き直した方が、混乱が少ないので、そちらをお薦めします。
作成した遺言自体を変更する方法だと、見にくくなりますし、変更方法に不備があると変更が無効となるからです。
変更が無効になると、変更前の内容が維持されますが、元の内容が判別できなくなった場合は、元の内容自体もなかったものとして扱われてしまいます。
具体的な変更の方法自体は、以下の様に変更します。
遺言書の変更方法
- 修正など変更したい箇所に二重線を引く
- その二重線を引いた箇所に押印をする
- 修正など変更した箇所に修正する文字などを書き込む
- 修正など変更した行の欄外に、「○行目○文字修正」と記載して、署名する
作成した遺言書から変更する内容が多い場合や、公正証書遺言を変更する場合は、遺言を新たに書き直します。
遺言書が複数ある場合は、内容の抵触する部分は新しい遺言が優先されるため、新しい遺言を書けば前の遺言が変更されます。
しかし、有効な部分が跨がっている遺言書が複数あると、その判別が複雑になります。
変更しなければならない事情が生じてしまったら、これまでの遺言を全て撤回して、新しく遺言を作成し直した方が、混乱を生じません。
遺言の全部を撤回する遺言の例
遺言者は、令和○年○月○日法務局所属公証人○○○作成同年第○○号遺言公正証書による遺言者の遺言の全部を撤回する。
遺言の一部を撤回・修正する遺言の例
遺言者は、令和○年○月○日法務局所属公証人○○○作成同年第○○号遺言公正証書による遺言者の遺言中、第○条の遺言者が次の建物を妻○○(生年月日)に相続させる旨の部分を撤回し、同建物を長男○○○(生年月日)に相続させると改める。
遺言内容の解釈
遺言書の変更や修正を繰り返した場合だけでなく、遺言書の原文自体からも、遺言内容の解釈が分かれたり、何を伝えたいのかはっきりと確定できないような場合には、その遺言書は無効になります。
遺言書の解釈について、判例で示唆されています。
遺言書の解釈について
「遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探求すべきであり、特定の条項を解釈するにあたっても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探求し当該条項の趣旨を確定すべきものである。」
最判昭58. 3 .18判時1075-115
まとめ
残された相続人の為に遺言者は遺言を残します。
しかし、遺書と異なり法律的な遺言には、気持ちを残す部分がメインではありません。
一般的には、相続財産の分配方法に法的効果を発生させるものがほとんどです。
残された家族が揉めないようにしっかり考えて書いたつもりでも、余計なことを書きすぎて、かえって分かりにくくなっては、元も子もありません。
分かりやすく、受け取った方達も納得できるような内容にして、遺言書を残すことが肝要です。