リスク条項の必要性は、契約解除条項もその内の一つです。
簡単に契約を解除できると、当事者だけでなく、取引関係にある第三者にも影響を及ぼします。
その為、民法や商法では解除権が発生する場合を、履行遅滞や履行不能の場合などに限定しています。
契約書に定めることができる法律の決まりを補足できる解除事由についてご説明致します。
解除事由の定め方
商取引の契約でよく定められる解除事由としては以下のものがあります。
- 契約違反
- 仮差押え、仮処分、強制執行、競売申立て、破産、民事再生
- 租税公課の滞納による督促
- 支払い停止、手形交換所の取引停止
- 監督官庁による行政処分
解除事由について抽象的な定め方をしている場合、例えば契約違反という解除事由については、当事者間で契約の解釈が異なるため、契約違反の事実がないとして争いになることも想定されます。
そこで、解除事由を具体化するための条項を設ける場合があります。例えば、次のような条項です。
「甲または乙は、相手方が本契約に違反している事実が判明したときは、文書にてその是正を求め、文書通知後10日以内に相手方が是正を行わないときは、何ら催告を要せず本契約を解除できる。ただし、第○条違反(○○違反)に関する場合は、本契約の重大な違反とみなし、相手方に通知することなく直ちに本契約を解除することができる。」
倒産解除条項
上に挙げた解除事由のうち、仮差押えや税金の滞納、支払い停止など、相手方に強い信用不安が生じた場合に、無催告解除ができるとする規定を、「倒産解除条項」といいます。
しかし、このように解除特約を規定していても、実際の倒産手続きにおいては解除権の行使が制限される場合があります。
これは、倒産手続きに入って破産管財人がついた場合に、債権者平等の原則や破産法における債権処理の規定が優先するという理由で、裁判で特約の有効性が否定されることがあるためです。例えば下記の様な場合です。
売主が破産し、破産管財人が買主に売買代金の支払いを請求したところ、買主が倒産解除条項により解除を主張して支払いを拒んだケースにおいて、倒産手続きにおいては、取引を継続するかどうかの判断は管財人に任されているから、一方当事者による解除は認められないといして、解除が認められなかった裁判例(東京地裁平成10年12月8日判決)。
そのため、当事者としては、解除条項のみに頼るのではなく、取引先の信用状況を常にチェックし、取引量の調整や支払い期間の短縮や即時支払いなどでリスク管理をしておくことが大切です。
継続的契約の場合
商人間の契約では、継続的な取引関係をする場合に、「基本契約書」と「個別契約書」をそれぞれ作成し、基本契約書で、解除事由が生じた時には催告なしに解除できるという条項を設けることがよくあります。
しかし、紛争になった場合、継続的契約においては解除条項による解除が認められず、解除権の行使には「やむを得ない事由」が要求されることが多いので、注意が必要です。
継続的契約は、当事者間の信頼関係を基礎にしているので、全体の取引からしたら、たった1回の債務不履行では解除を認めることが相手方に酷であり、信頼関係が破壊されたとは言えないとして、やむを得ない事情がある場合に限ってしか、解除が認められないという判断が裁判上は多いのです。
少し事例が違いますが、家賃を1度滞納したからといって、退去を求めることができない場合と考え方は同じです。
2度3度と連続して滞納して初めて信頼関係が破壊された状態になります。
また、取引契約が継続的契約と言えるかどうか自体が争いになる場合もあります。
契約書に「継続的」取引であることが明示されていれば問題ありませんが、そうでない場合は、取引の実体、取引条件や数量、価格などによって、継続的取引かどうかの認定がされることになります。
全てにおいて言えることですが、契約書には、誤解の余地がない記載が大切になります。