ニュースを見ていると、連日のように不祥事のニュースが流れています。
一昔前と違って、インターネットにより情報の拡散もされやすくなっているので、不祥事を起こした芸能人は、再起不能になるまで追いやられることも珍しくありません。
芸能人ばかりでなく、企業の不祥事は、またたく間に世間の知るところとなり、公的な罰則などの制裁を受けるだけに留まらず、不買運動や株価暴落による損害を受けることも目にします。
それの原因は、社員が過労で自殺したり、会計が不適切であったり、個人情報の流出と態様は様々です。
「企業は社会の公器」という言葉を松下幸之助さんが残されています。
企業が社会的責任を担わなくていけないことは、この言葉の意味の一つであると思います。
公益通報者保護法
そういった責任ある企業の不祥事が発覚するきっかけに、企業内部の労働者からの通報によるものもあります。
国民の利益へ被害が拡大することを防止するために通報する行為は、被害の発生や拡大を防止するため、保護されなければなりません。
しかし、現実には、解雇や減給、降格といった扱いを受けることは、容易に想定されます。
社会的な制裁を受け、経済的損失を被るかもしれませんが、事業者にとっても、本来企業内のリスクを早期に把握でき、将来的な自浄作用が向上できるといった、長い目で見た社会的信用の獲得が期待できます。
このような社会全体の利益を守る行為は、事業者からの不利益な扱いを受けないように保護されるべきです。
そういった考え方から、「公益通報者保護法」が平成18年から施行されています。
公益通報とは
「公益通報者保護法」では公益通報を、 「労働者が」 「労務提供先の不正行為を不正の目的でなく」 「一定の通報先に通報すること」 と規定しています。
通報する人は「労働者」
「労働者」には、正社員、派遣労働者、アルバイト、パートタイマーなどのほか、公務員も含まれます。
労働基準法9条に規定されている労働者のことを指しています。
「労務提供先」とは
労務提供先とは、労働者が労務を提供する事業者のことです。
勤務先で働いている場合は、勤務先の事業者。
派遣労働者として働いている場合は、派遣先の事業者。 請負契約等で働いている場合は、取引先の事業者。 以上の3通りがあります。
通報する内容は「一定の法令違反行為」
通報対象事実とは、「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律に違反する犯罪行為」又は「最終的に刑罰に繋がる行為」のことです。
個人の生命や消費者の利益保護といった観点から、環境保全や公正な競争の確保といった幅広い分野が対象となっています。
犯罪行為の例
- 窃盗や横領
- リコール情報の隠蔽
- 産業廃棄物の無許可での遺棄
そういった刑罰が科されている行為が対象です。
通報目的が不正でないこと
不正の利益を得る目的や他人に損害を加える目的、その他の不正な目的で通報した場合は、公益通報にはなりません。
例えば、金品をゆすりたかるなどの不正の利益を得る目的であったり、対象者の信用を失墜させるなどの有形無形の損害を加える目的であったりというのが、ここにいう「不正の目的」に当たります。
一定の連絡先
通報先は、以下のいずれかです。
- 事業者内部
- 権限のある行政機関
- その他の事業者外部
保護される内容
労働者が、要件を満たして通報した場合には、不利益な取り扱いが禁止されています。
- 解雇の無効
- 減給、降格、雑務への従事といった、解雇以外の不利益な取り扱いの禁止
- 労働者派遣契約解除の無効
裏付け資料の収集
当然、証拠がないまま通報しても、通報先に是正措置へ踏み切らせることができないかもしれません。
通報先が通報内容を事実だと判断できる材料が必要になります。 その為、就業規則の内容にかかわらず、通報者による一定の資料の持ち出しが正当化されることもあります。
各事案における資料収集行為は、解雇の理由となる程度に重大なものといえるか、という観点から判断されています。
主に考慮される要素の例
- 収集の目的 通報のためであるか
- 収集手段の相当性 通報者がアクセス可能な資料かどうか 収集した資料が必要な範囲内のものといえるか
- 収集した資料と通報内容との関連性・事業者に与える損害の程度 収集した資料の財産的価値 収集行為自体から実際に生じた損害の程度
まとめ
「内部通報制度」とは、企業内部の問題を知る従業員から、経営上のリスクに係る情報を可及的早期に入手し、情報提供者の保護を徹底しつつ、未然に早期に問題把握と是正を図る仕組みです。
その目的は、自浄作用の発揮とコンプライアンス経営を推進し、安全・安心な製品・役務の提供と企業価値の維持・向上を図ることとしています。
その効果は、違法行為への抑止力であったり、違法行為の是正であったりと、大きく企業の健全化に貢献しています。
そういった企業の「内部からの声」とお客様といった「外部からの声」は、企業の発展に欠かせないものです。
企業の規模を問わず、不祥事や不法行為は、全ての企業が意識しなくてはならない問題です。
事業者からしたら、寝耳に水の内部通報は、受け入れがたいものに違いありませんが、管理体制の不備が改善され、将来的な発展を見越して、内部通報者に寛容に接しなくてはいけないですね。
参考:消費者庁公益通報者保護制度のサイトより