これまで、一般的に必要とされる遺言書の文例を御紹介して来ました。
今回は、あまり必要ではないかもしれませんが、状況が当てはまる方に取っては重要になる遺言条項を御紹介します。
単純に財産を分けるだけではなく、遺言でこんなこともできるのか、ということを頭の片隅に残していただければ、将来役に立つことがあるかもしれません。
貸付金を免除する場合
第〇条 遺言者は、長男〇〇〇〇に令和〇〇年〇〇月〇〇日に貸し付けた金500万円についての長男の返還債務を免除する。
遺言者が、相続人に金銭等を貸し付けていた場合、遺言で免除することができます。
免除することにより、お金を借りていた相続人は、借入金と同額の相続財産を得たことになります。
もし、免除しないままだと、法定相続分に応じて貸付金が相続されるので、債務者である相続人は、他の相続人へ返済をしなくてはなりません。
子供にお金を貸していたけど、亡くなったら返す必要がないと考えている場合には、この遺言を残しておかなければなりません。
他の兄弟からしたら、親が貸していたお金でも、借りていた相続人だけ得をすることに我慢がならない場合があるかもしれません。
残された家族の感情も考えて、遺言内容を決定する必要があります。
財産を現金化して分配したい場合
第〇条 遺言者の有する財産の全部を換価し、その換価金から遺言者の一切の債務を弁済し、かつ、遺言の執行に関する費用を控除した残金を、次のとおり相続させる。
妻 〇〇〇〇に2分の1
長男 〇〇〇〇に4分の1
長女 〇〇〇〇に4分の1
有価証券や不動産の様に、分けにくい財産もあります。
すでに個々の生活基盤が安定しており、住まい以外の不動産を所有することが負担になる場合もあります。
そんな場合に、遺言者の債務等を弁済した上で、その残金を相続させるように指定する「清算型遺言」の例です。
遺言執行者が指定されていれば、遺言執行者は不動産を相続人の名義で売却します。
手続き的には、相続人全員の相続登記をしてから、遺言執行者と買主との共同で所有権移転登記を申請することになります。
この場合、相続人が共同して、この作業を行うことは難しいので、必ず遺言執行者を指定しておかなければなりません。
遺産分割の禁止
第〇条 遺言者は、遺言者の遺産全部について、その分割を相続開始の時から5年間禁止する。
遺言者は、遺言で相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁止することができると、民法には規定されています。
分割の禁止は、遺言でしなければならず、生前行為による分割禁止は無効です。
遺言による分割禁止期間が5年を超える場合には、5年間の禁止遺言としてその効力が認められます。
遺産分割を禁止する例として、相続人に未成年の子や孫がいる場合が想定されます。
相続人が未成年の場合、親である法定代理人や、特別代理人が代わりに遺産分割協議に参加することになります。
成人してから、しっかりと自分の判断をして欲しい場合等に利用できる遺言条項です。
侮辱や暴力を受けて絶対に財産を渡したくない場合
第〇条 遺言者の長男〇〇〇〇は、遺言者を毎日の様に罵り侮辱し、時には暴行を加えるといった虐待を続けたので、遺言者は、長男〇〇〇〇を廃除する。
遺言者は、相続人に虐待されたり、重大な侮辱を加えられたとき、又は相続人にその他の著しい非行があったときは、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができるとされています。
廃除の対象となる相続人は、遺留分を有する推定相続人であるので、遺留分を有しない兄弟姉妹は、廃除することができません。
廃除したいような行為があったとしても、遺言で遺産を相続させない内容を残せば、財産が渡ることがないからです。
家庭裁判所は、廃除の審理に当たり、遺言に廃除事由が特定されていなくても、廃除の意思が明らかである以上、廃除事由について調査をしなければならないのですが、どういった廃除に当たる行為があったのか、ある程度具体的な排除自由が記載してあった方が、スムーズだと思われます。
また、反対に遺言で廃除の取り消しをすることも可能です。
第〇条 遺言者の長男〇〇〇〇についての廃除を取り消す。
まとめ
遺言書は、遺言者が亡くなった後の財産を譲り渡す最後の意思表示です。
また、附言事項として家族へ想いを残すこともできます。
既存の記載例に当てはまればいいのですが、内容が複雑になりそうな場合は、しっかりチェックのしてもらえる公正証書遺言に切り替えるか、弁護士等の専門家に相談をした方が、結果的に残された家族が困らないかもしれません。
ご自身の状況に合わせて、適切に判断して遺言書を残しましょう。