相続・遺言・登記

レアな登記事例【時効取得・相続やり直し・遺言書無視・認知症の場合】

2020年11月21日

前回、知っていると、もしもの時に対応できるかもしれない例として、「名義の違う人が増築をした場合」「合筆したい場合」「登記をしなかったらどうなるか」についてご説明しました。

頭の隅にでも置いておけば、どうしたらよいか流れがスムーズになることもあるかもしれません。

今回も引き続き、もしもの時に知っておくと、スムーズに事が運びそうな登記に関する事例を御紹介したいと思います。

 

父親名義の家の土地が、他人のものでした。
自分の名義にできるでしょうか?

これには色んな方法があります。

地主さんを見付けて、土地を売ってもらう方法が一番まともな方法です。

しかし、建物だけでなく土地も父親から相続して、自分のものになっていたと思い込んでいた場合には、その事実にかなり驚かれると思います。

所有していた土地を他人が使っていたからといって、勝手に奪われてしまっては、土地所有者にとってたまったものではありませんん。

しかし、民法では、「取得時効」といって、権利者らしい状態(占有状態)が一定期間継続することによって、権利取得の効果を認めています。

時効取得は、以下の要件を満たすと、成立します。

時効取得の要件(民法162条から)

①所有の意思のある占有であること

②平穏かつ公然の占有であること

③他人の物の占有であること

④一定期間占有が継続すること

自分の物ではないことを知っていた場合は、20年間

自分の物ではないことを知らなかった場合は、10年間

⑤知らなかった場合は、占有の開始時に、善意かつ無過失であること

時効取得にも様々な事例がありますが、今回は亡くなった父親の家屋に居住して10年が経過場合とします。

「時効取得」を原因として、所有権の登記名義を自分のものにできるでしょうか?

 

過去の裁判例をみると、結論としてできる場合があります。

昭和44(オ)1270 所有権移転登記手続等本訴~

昭和46年11月30日 最三小判

裁判要旨

~被相続人の死亡により、相続財産の占有を承継したばかりでなく、新たに相続財産を事実上支配することによって占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみられる場合においては、被相続人の占有が所有の意思のないものであつたときでも「新権原」により所有の意思をもつて占有を始めたものというべきである~。

 

上記判例の様に、相続を契機に占有を開始して自分のものと疑わずにに、10年間占有して来た場合には可能性があると思われます。

時効取得の要件③で他人の物としていますが、判例では自己物も時効取得の対象とされています。

よって、建物名義が亡くなった父から変更していなくても、していても理屈としては時効取得が可能です。

ただ、実際には亡くなった人から直接時効取得により所有権移転登記ができないので、相続人に名義を変更してからの移転となります。

この場合、所有権を奪われる相続人側から署名、実印の押印、権利書、印鑑証明書をいただかなくてはなりません。

土地所有者が健在ならば、その方からいただく必要があります。

そのため、実際には裁判によらなければ、登記の名義を得ることは、難しいと思われます。

その場合でも、証拠の問題もつきまとい必ずしも勝訴できるとは言えません。また、

相続と異なり、時効取得で名義を取得した場合には、一時所得等の税金も発生します。

円満に解決しようと思ったら、話し合って購入させてもらった方が、早いかもしれません。

 

夫の死亡後に妻が死亡しました。
亡くなった妻に名義を付けることはできるでしょうか?

相続税は、配偶者の控除が大きいので、1次相続の際に亡くなった方の妻や夫へ、大きく遺産を配分した方が、節税できる場合があります。

限定的ですが、亡くなった配偶者名義に名義を付けることができる場合があります。

その場合とは、妻の死亡前に、妻が遺産を取得する記載のある遺産分割協議がなされており、遺産分割協議書に妻を含めた相続人全員の署名、実印の押印があり、当時の印鑑証明書が残っていれば、亡くなった妻名義に登記を付けることが可能です。

しかし、妻の死亡前に遺産分割協議が整っていなかった場合は、死亡した妻に名義を付けることはできません。

 

父が残した遺言書が見つかりました。
遺言書と違う内容に相続できるでしょうか?

相続人全員が遺言の内容を知っている場合で、全員が合意すれば可能です。

相続人全員が納得しあった内容で、遺産分割協議をおこないます。

相続税が高くなってしまった場合等、実務では、遺言と異なる遺産分割協議はよく行われます。

判例でも遺言と異なる遺産分割協議を認めています。

原則として、相続人全員(遺贈の受遺者を含む)の同意があれば、遺言と異なる遺産分割協議は可能ですが、下記の場合は、できないこともあります。

  • 遺言者が、遺言と異なる遺産分割を禁じた場合
  • 遺言執行者がいる場合は、遺言執行と矛盾してないこと、あるいは、遺言執行者の同意が必要。
  • 既に遺言に従い、分割を済ませていた場合、特に登記などを済ませていた場合
    (この場合は、遺産の再分割と同様に課税の問題が生じる恐れがあります。)

 

相続人に認知症で判断能力のない方がいました。
相続手続は、どう進めればいいでしょうか?

認知症等で判断能力がない場合、「成年後見制度」を利用して、選任された成年後見人が本人に代わって遺産分割協議を行います。

遺産分割を理由として成年後見人選任申立をする場合には、遺産分割案を家庭裁判所へあらかじめ提出しなければなりません。

成年後見制度は、本人の保護のための制度であるので、本人にまったく財産を承継させないような遺産分割協議は認められません。

ただ、遺産分割協議自体に家庭裁判所の許可が必要ではないので、登記申請は可能です。

しかし、本人の財産を侵害した場合、成年後見人は解任され、損害賠償請求をされる可能性があります。

原則として、何か事情がないと、本人の法定相続分を確保した遺産分割協議でなければ合意ができません。

なお、多額の相続税がかかってしまい、他の相続人が不利益を受けてしまうような場合でも、家庭裁判所の考えとしては、相続税の負担義務は相続人にあり、軽減することは相続人のためになっても、本人の利益のためにはならないとしています。

もし、どうしても法定相続分を確保した遺産分割協議に納得できない場合は、家庭裁判所の担当者との綿密な打ち合わせを行い、本人の保護を図りつつ、全員が納得できるような協議内容を目指さなければなりません。

場合によっては、成年後見人を選任せずに、遺産分割協議を行わないという選択も必要かもしれません。

 

※特別代理人の選任必要な場合

本人の成年後見人として、親族の方が就任することは珍しくありませんが、成年後見人の立場と、相続人の立場とが重複する場合があります。

互いが相続人どうしになってしまうと、利益相反となり利益の相反しない、特別代理人を選任する必要があります。

なお、後見監督人が選任されていれば、後見監督人が特別代理人の役割を果たすため、特別代理人の選任は不要となります。

※参考

成年後見人と本人が不動産の売買をする場合や、債務者が成年後見人で本人の不動産に担保設定をする場合なども、同様に特別代理人の選任が必要となります。

本人所有の居住用財産の売却や担保設定の場合は、事前に家庭裁判所の許可が必要です。

 

まとめ

今回は、知っていると、もしもの時に役立つかもしれない例として、
「相続した土地が他人のものだった場合」
「相続の名義を付け替えたい場合」
「遺言書と違う相続をしたい場合」
「相続人に認知症の方がいる場合」

についてご説明しました。

日常生活をしていて、困ることになるものではありませんが、こういった場合に自分が遭遇した場合、解決の糸口になるかもしれません。

読み物として、読み流していただければ、幸いです。

また、レアケースですが、ニッチな事例を御紹介していきます。

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