先日、登記簿を確認する方法を御紹介しましたが、普通に暮らしていると登記に触れることは、ほとんどありません。
登記の専門家と言えば、土地家屋調査士と司法書士です。
しかし、不動産を購入する場合には不動産屋さん。
建物を建築する場合には建築会社。
借り入れの場合は銀行。
と、ほとんど入り口が決まっていて、段取りもしてもらえる為、自分から専門家の事務所の門を叩かずに済んでしまいます。
ただ、普通の暮らしをしていても、どんな場合に登記をしなくてはいけないかとか、こんな時に登記できるのかなとか、疑問に思う場合も出て来るかもしれません。
そんな、もしもの時に知っておくと、スムーズに事が運びそうな登記に関する事例を御紹介したいと思います。
父親所有の建物に息子が増築した場合
父親名義の家に息子がが資金を出して増築をした場合、その所有は父親のものになり、増築した息子は権利を失います。
民法の第242条に不動産の「附合」と言う規定があります。
附合
「不動産の所有者は其不動産の従として之に附合したる物の所有権を取得す。」
分かりやすく言うと、建物を増築したら、だれが増築しても、増築部分は、元々の建物の所有者のものになるといった内容です。
これは、内装外装等の大規模改装も同じ理屈で、システムキッチンの様な、分離できない造作物も附合物として、同じく元々の建物所有者のものになります。
しかし、このままだと息子がお金を出して、父親が利益を受けているだけになり、贈与税がかかってしまいます。
持分移転登記
これを防ぐには、建物の時価と増築や大規模改装費の割合で、建物の持分を息子へ移転しなければなりません。
この場合、「贈与」「代物弁済」「真正な登記名義の回復」といった原因で、登記をすることになります。
贈与とは?
「贈与」とは、一方がある財産を無償で相手方に与える行為をいいます。
代物弁済とは?
「代物弁済」とは、返済をしなくては行けない債務者が、元々債務者の負担した給付に代えて、別の給付をすることによって、既存の債務を消滅させることをいいます。
お金を借りたのに、お金以外で弁済することをお互いに許諾する行為です。
真正な登記名義の回復とは?
「真正な登記名義の回復」とは、不動産の名義人が本来の権利者以外の者になっている場合、これを本来の権利者の名義に是正するための移転登記をする時に使用する登記原因のことをいいます。
この場合、移転した分の固定資産評価額の2%が、名義変更にかかる登記の税金となります。
一昔前は、「錯誤」を原因として、1,000円で持分を直していた時代もありましたが、実体と伴わないので、今はできなくなっています。
また、大規模改装に増築が含まれている場合には、建物表題変更登記をして床面積の変更も必要です。
建物が古くなっていて、評価額が110万円を下回っているような場合には、先に建物名義を全て息子へ名義変更しておくことも方法の1つです。
(贈与税の基礎控除は、1年間で110万円です。)
増築や改装に住宅ローンを利用した場合、父親に名義が残っていると、父親も連帯保証人となることも多いです。
贈与税の他にも、譲渡所得税、相続税(相続時精算課税制度)、住宅ローン減税を考慮して、慎重に方法を選択する必要があります。
複数の土地を1つにまとめるたい場合
土地をくっつける登記を「土地合筆登記」といいます。
分ける登記は「土地分筆登記」といいます。
登記の内容を確認する登記事項証明書は、1通単位で費用がかかります。
そのため、複数の土地であればあるほど、その都度費用がかさむこともあります。
1通600円ですが、1筆と10筆では、必要な都度、かなり差が出てきます。
また、家がたくさんの土地にまたがっていると、住所と地番が違ってくるので、分かりにくくなります。
そんな場合に、複数の土地を1つにまとめると、簡便になりますが、どんな場合でもできる訳ではありません。
次に掲げる合筆の登記は、することができません。
合筆できない場合
1.互いに接続していない土地の合筆
2.地目が異なる土地の合筆
3.地番区域が異なる土地の合筆
4.所有者が異なる土地の合筆
5.所有者の持分が異なる土地の合筆
6.所有権の登記がない土地と所有権の登記がある土地の合筆
7.所有権の登記以外の権利に関する登記がある土地の合筆
合筆登記が完了すると、新しく権利書(登記識別情報)が作成されます。
合筆前の権利書も変わらずに有功のままなので、同じ土地の権利書が2つ存在することになります。
また、分筆登記には測量が必要ですが、合筆登記が測量は不要です。
合筆した土地の地番は、合筆前の首位の地番をもってその地番とします。
例えば、1番1の土地と5番の土地を合筆する場合、首位の地番は1番1ですので、合筆後の地番は1番1になります。
但し、5番を住所で現在使用している等の特別な理由があれば、若番ではない地番を残すことが可能です。
登記をしていないと罰則がありますか?
相続登記が義務化される動きもありますが、現在はまだ義務ではなく、罰則もありません。
(表題登記には、建物を新築したり増築した場合など、1ヶ月以内の申請が義務づけられており、過料もあります。)
不動産登記ではありませんが、会社や法人登記には、決められた期間内に登記をしないと登記懈怠の罰則があります。
しかし、罰則がないとは言え、早めにの登記することをお薦めします。
具体的に下記のケースでは注意が必要です。
注意が必要な場合
住所を変更した場合
最近、保存期間が5年間から、150年に伸長されましたが、以前の戸籍の附票や住民票の除票は、除かれてから5年間しか保存期間がありません。
登記簿上の住所から現在の住所まで繋がらない時は、別途権利書の写しや印鑑証明書や納税証明の様な書類が別途必要になり、迅速な対応ができない場合があります。
※結果的にできないことはないので、何か他の理由がなければ、住所変更の登記のみを単独ですることはあまりないかもしれません。
所有者を変更した等の物件変動があった場合。
不動産を購入したのに、登記をしないままでいると権利を失うかもしれません。
登記には対抗力があるいう表現をしますが、先に買ったとしても、後から買った人に登記をされてしまたら、所有権を得ることができないのです。
そのため、登記をする前に二重譲渡をされると、第三者に負けてしまいます。
他人に対して自分が所有者だと主張できません。
所有者が亡くなった場合。
相続人が時間の経過により亡くなったりすると、相続人の数が増えてしまうので、印鑑や印鑑証明書をもらうことが困難になることがあります。
話ができる濃い関係性の内に、登記をしないと、名義変更に苦労するかもしれません。
ローンを返済した場合。
借り入れをしていた、銀行等が合併等の組織再編があると必要な書類が増えます。
その場合、余分な費用がかかることがあります。
また抵当権者が清算結了等でなくなってしまうと、裁判所より清算人を選任してもらうなど手続きが煩雑になります。
完済したことを証する書類をなくすと「休眠担保権」といって供託したり、訴訟をしたりと費用も時間もかかることになります。
登記をしないと効力が発生しない場合がある。
あまり、一般の方には、縁がありませんが、共同根抵当権設定や抵当権の順位の変更といった登記は、登記をしないと効力が発生しません。
ほとんどの登記が、実体上発生した事実を報告する登記ですが、中には効力要件になっているものもあります。
まとめ
今回は、知っていると、もしもの時に対応できるかもしれない例として、「名義の違う人が増築をした場合」「合筆したい場合」「登記をしなかったらどうなるか」についてご説明しました。
すぐに何か困ることになるものではありませんが、知っていると後々の流れがスムーズだったり、損をせずに済むかもしれません。
知らなくても、すぐには困らないことばかりですが、頭の隅にでも置いていただければ、幸いです。
また、今後も違う事例を御紹介していきます。