前回、知っていると、もしもの時に対応できるかもしれない例として、
「相続した土地が他人のものだった場合」
「相続の名義を付け替えたい場合」
「遺言書と違う相続をしたい場合」
「相続人に認知症の方がいる場合」
についてご説明しました。
こういったケースに当てはまることは、まずありませんが、それでも宝くじに当たる確率よりは、はるかに高いです。
今回も引き続いて、知っておいたら、スムーズに事が運びそうな登記の事例を御紹介したいと思います。
農地の名義を変更したい場合
ちょうど同時並行で農地に関する許可について、ご説明をしていますので、農地の権利関係を変えたり、農地以外にしたい場合に、何が必要かをまとめてみました。
農地を農地以外にする場合
農地の所有権移転や賃貸借設定等には、原則として農地法の許可や届出が必要になります。
農振法の農用地区域では、農用地区域からの除外申請が必要
(青地といわれる場所で基本的に難しい)
市街化調整区域では、農地法の許可が必要
※市街化を抑制する区域との観点から、農家の分家住宅の建築等一定の限られた開発行為に限る
市街化区域では、農地法の届出が必要(出せば通る)
未線引区域では、農地法の許可が必要
農地を農地として売買や賃借する場合
市街化区域・市街化調整区域共に 農地法3条許可が必要。
農家の資格がないと難しい。
自分の農地を農地以外にする場合
市街化区域では、農地法4条届出が必要
市街化調整区域では、農地法4条許可が必要
他人の農地を取得又は賃貸して、農地以外にする場合
市街化区域では、農地法5条届出が必要
市街化調整区域では、農地法5条許可が必要
農地でなくなってから20年を経過した場合
現在は農地ではないという非農地証明で、農地以外に登記地目の変更可能です。
現況証明とも言われます。
もう農地として使うことがなくなった土地について、例外的に地目の変更が認められます。
建物が20年以上存在している等の事実が必要です。
農地法の許可等を要する特殊なもの
売買や賃貸借といった、ポピュラーなものでない原因でも農地法の許可が必要な場合があります。
- 特定遺贈(包括遺贈は不要)
- 共有分割
- 農地の地下に工作物を設置する目的の地上権設定
- 合意解除による所有権移転登記の抹消(法定解除は不要)
- 真正な登記名義の回復
- 農地の買戻しによる所有権移転
- 質権設定(使用収益不可の場合は不要)
- 賃借権設定、移転
- 競売による競落許可決定
- 死因贈与
- 譲渡担保
- 代物弁済
- 現物出資
農地法の許可が不要なもの
原則として、農地の名義を変更する場合に許可が必要ですが、以下のような場合には、許可は不要です。
- 相続
- 包括遺贈(特定遺贈は必要)
- 時効取得
- 共有持分の放棄による持分移転(他の共有者への帰属に限る)
- 法人格のない社団が所有する農地を「委任の終了」で移転する場合
- 特別縁故者への移転
- 遺留分減殺
かなり箇条書きで羅列しておりますので、詳細なことを知りたい方は、こちらを参照して下さい。
築年数の古い建物を相続した場合
古い建物を相続した場合に、登記をしなくてはいけないのでしょうか?
結論として、登記をしておいた方が間違いありません。
但し、古い建物の場合、建物が未登記の場合も想定されます。
未登記の建物の場合は、課税名義だけ変更しておく方法と、建物表題登記をして登記名義を相続人に変えておく方法があります。
登記された建物は、相続登記の方法により、相続人に名義を変えなければなりません。
登記された建物でも未登記の建物でも、名義を変更しておかないと、以下の様な場合に困ることもあります。
- 建物を担保に金融機関から融資を受けるケース
- 建物を売却するケース
こういった場合に、迅速に対応することができなくなります。
また、相続による名義変更をしておかないと、印鑑をもらわなくてはならない、相続人が増えてしまうかもしれません。
話し合いができる内に、名義を変えておいた方が、懸命です。
建物が未登記の場合の対応方法
①登記は行わずに、そのままにしておく。
役所の固定資産税を担当している課に未登記建物の名義変更届を提出。
(遺産分割協議書、戸籍、印鑑証明書等は必要)
但し、名義変更届をせず、明確に相続人を決めておかないと、後々相続人間でトラブルが起こる可能性があります。
②未登記建物を登記する。
建物表題登記
土地家屋調査士に依頼します。
所有権保存登記
司法書士に依頼します。
※建物を相続する相続人に、直接名義を付けることもできます。
建物の登記をするには、面積や構造、形といった、物理的な情報を申請します。
新築したばかりの建物なら、簡単に必要書類が揃いますが、古い場合には少し大変なこともあります。
未登記の建物を登記するには、以下の書類が必要
建築確認済証・建築確認申請書一式
検査済証
建築代金の領収書
工事請負契約書
(上記の内2つ)
所有者の住民票
工事完了引渡証明書(施工業者の資格証明書+印鑑証明書の添付が必要)
※3ヶ月以内の有効期限はありません。
上記の書類がない場合
固定資産評価証明書
火災保険証書
電気・ガス・水道などの公共料金の領収書(住所の記載のあるもの)
借地上の建物であれば、土地賃貸借契約書
建物が貸家。貸室の場合は、建物賃貸借契約書
第三者証明書(印鑑証明書の添付が必要)
納税証明書3年分
(上記の内2つ)
建物が登記されていた場合の対応方法
相続人間で遺産分割協議を行い、相続登記で名義を変更します。
建物を取り壊した場合は、建物滅失登記
あまりいい方法ではありませんが、そのまま放置しておく手もあります。
将来的に建物を取り壊した場合には、相続人の内1名からの申請で建物滅失登記ができます。
ただ、建物を取り壊す行為は、相続人の1人から勝手にできるものではないので、他の相続人の承諾が必要です。
それでも、もし壊れてしまったら、建物滅失登記は、相続登記のように相続人全員の承諾が必要ではありません。
土地は相続人全員の同意がなければ、権利関係は変動しませんが、建物は物理的になくなってしまうこともあり得ます。
遺産分割協議書の不動産が登記簿と違う場合
遺産分割協議書に記載してある不動産の表示が、登記簿と異ったものである場合があります。
不動産を把握した元資料が、固定資産課税台帳の固定資産税納付書であったり、固定資産評価証明書だった場合に、一致しないことはよくあります。
遺産分割協議書で登記上の不動産が、特定できない場合には、登記申請が完了しないことがありますので、登記簿の記載と同一記載の方が確実です。
よくある記載例
土地
宅地
○○市○町3丁目1-1、1-2
75㎡
(所有割合1/2)
・2筆を一括した記載
・地積を持分割合で割った結果を面積で記載
建物
居宅木造
○○市○町3丁目1番地1、2
100.00㎡
(所有割合1/2)
・家屋番号の記載がない
・所在を枝番のみで表示
登記申請上望ましい記載例
土地
所 在 ○○市○町三丁目
地 番 1番1
地 目 宅地
地 積 100.00㎡
(持分2分の1)
土地
所 在 ○○市○町三丁目
地 番 1番2
地 目 宅地
地 積 50.00㎡
(持分2分の1)
建物
所 在 ○○市○町三丁目1番地1、1番地2
家屋番号 1番1
種 類 居宅
構 造 木造かわらぶき2階建
床 面 積 1階 100.00㎡
2階 100.00㎡
※マンション等の区分建物の場合は、家屋番号に地名が入ります。
相続登記上特別に必要となる事項
保存期間の満了で、除籍が取得できなかった場合
除籍、原戸籍が保存期間の満了により取得できなかったものがある場合、他に相続人が残っている可能性も否めません。
そのため、他に相続人がいない上申書を作成するか、遺産分割協議書の項目に「被相続人〇〇〇〇の相続人は下記相続人〇〇〇〇、〇〇〇〇の他には存在しない。」文言が必要になります。
登記簿上の住所が公的書類で確認できない場合
登記簿上の被相続人の住所が、戸籍上の本籍地、戸籍の附票・住民票の除票の住所地に過去のものを含めて出て来ない場合に別途書類が必要になります。
登記簿上の名義人と被相続人が過去の住所変遷を記載した上で、同一人物であることを記載した上申書が必要です。
現在は150年に伸長されましたが、戸籍の附票、住民票の除票は死亡や住所移転等の理由により、除かれてから5年で保存期間が満了していた時期があります。
※上申書には、相続人全員の署名と実印の押印が必要なので、もめている場合など注意が必要です。
まとめ
今回は、知っていると、困った時に何かの糸口になるかもしれない例として、
「農地の名義を変更したい場合」
「古い建物を相続した場合」
「遺産分割協議書の不動産表示が違う場合」
についてご説明しました。
専門家に任せてしまえば、解決してもらえると思いますが、早めの段階で問題点を把握できた方が、苦労が少ないかもしれません。
今回御紹介した事例は、あまりレアケースではなく、結構起こります。
でも、難解な内容なので、そんなこともあるのかぁくらいに読んでいただけると、何かの拍子に気が付けるかもしれませんよ。